静岡県下の学校の禁煙化サポート

静岡県では、平成17年度(2005年度)より、県下全ての公立学校で「敷地内禁煙化」が実現しました(教育長通知)。ここでは、その実現に向けて、微力ながらも赤田研究室で取り組ませていただいたいくつかの事柄を、時系列で紹介します。

なお、静岡県下の学校敷地内禁煙化は、当然のことながら、様々な団体・組織、個人各位の私的・公的での精力的・継続的な働き掛け・活動があったからこそ実現されたものであり、赤田研究室の単独の成果などでは決してありません。

その前提において、以下に続く紹介文は、「将来、静岡の学校で教員として働きたい!」と願っていた静岡大学教育学部赤田研究室の学生たちの、当時、残念ながら発生していた学校での児童・生徒の受動喫煙の発生や非喫煙者である教員の受動喫煙の被害の発生の状況をなんとか改善したいという強い思いから取り組んだ、「健康的で安全な社会環境づくり(学校の禁煙化:ヘルスプロモーション)」の活動記録となります。児童・生徒の健康を願い、教員の労働環境の改善を図ろうとした赤田研究室の取り組みの一部です。

(行動力と熱意あふれる当時の学生の方々)

【当時の状況 平成14年度(2002年度)】

喫煙・受動喫煙の健康被害に関する科学的データが整い、社会全体としての喫煙対策が進もうとする中、学校での喫煙対策としては、和歌山県が全ての公立学校の敷地内を禁煙とする施策を、平成14年度(2002年度)から全国に先駆けて実施することとなりました。静岡県下でも、浜松市の蒲小学校や船越小学校等、その他のいくつかの学校で、学校長・教職員の方々のご牽引によって、当該学校の約束事として先駆的に学校禁煙化が実施されていました。しかしながら、県全体としてはその実施率は極めて低い状況でした。この状況を打開するためにも、受動喫煙防止対策の推進を個々の学校の裁量に依存するのではなく、和歌山県のように県の教育委員会の裁量・責任で静岡県全体の学校敷地内禁煙化対策の推進を目指すべきではないか・・・。そのような内容が、赤田研究室のゼミの議論でまとまりました。

【平成14年度(2002年度)以降の赤田研究室の取り組み】

上記の状況把握のなか、静岡県に自治体レベルとしての学校敷地内禁煙化の施策を実現していただくために、赤田研究室が率先して、その基礎資料・参考資料を作成すること、また、学校敷地内禁煙化に向けた啓発活動や世論形成を赤田研究室が担うことは、健康的で安全な社会環境づくり(ヘルスプロモーション)のためにも大きな意義があると判断し、「学校敷地内禁煙化に向けての施策の検討、決定、実現を大学の研究室としてサポートする」という発想のもとに、赤田研究室では以下のような取り組みを展開していきました。時系列にて紹介します。

 

・・・和歌山県でのフィールドワーク・・・

(先行事例を静岡県に紹介する活動)

1)フィールドワークとして和歌山県庁に訪問し、学校禁煙化を実現したキーパーソンにインタビュー調査を行い、行政的なノウハウを学ぶなかで、その内容を静岡県行政関係者へ報告する準備を進めました。<平成14年(2002年)3月>

2)フィールドワークとして和歌山市の高等学校及び小学校に訪問し、県の学校禁煙化の方針をどのように学校運営に反映させ、教職員や保護者の賛同を得ていったかについてインタビュー調査を行い、ノウハウを学ぶなかで、その内容を静岡県教育関係者と教職員労働組合へ報告する準備を進めました。<平成14年(2002年)6月>

和歌山県内の学校を巡りました

(写真は龍神村の学校玄関)

 

・・・喫煙に関する実態調査の実施・・・

(静岡県内の実態を客観的に調査する活動)

3)静岡県内の小・中学校内での喫煙実態について、喫煙所の有無や、受動喫煙の発生の可能性の有無等、教員に対するアンケート調査を実施し、その結果を静岡県行政関係者へ報告する準備を進めました。671校からアンケートの回答が寄せられ(回収率78%)、小学校では94.7%、中学校では99.1%において喫煙が行われている実態が示されました。受動喫煙対策も急務であることが明らかになりました。<平成14年(2002年)7月>

 

・・・禁煙外来のリストの作成・・・

(禁煙サポートの医療体制の初歩的調査)

4)医療情報の充実を目指して、静岡県内の「禁煙外来(禁煙に向けて医療的なサポートをする病院)・医療機関」の実態調査を行い、県内初の禁煙外来リストを作成しました。それを静岡県行政関係者へ報告し、禁煙を希望する方々への情報として活用してもらえるよう呼び掛けました。縁故法での電話調査という限界がありましたが、県内から31の医療機関から禁煙外来リストへの掲載に賛同をいただきました。<平成14年(2002年)9月~>

 

・・政治的立場にある方々への情報提供・・

5)禁煙化に理解のある静岡県議会関係者へ上記1)~4)、以下6)による情報を提供するロビー活動(政治的活動ではない)を実施しました。なお、学校教育に造詣の深い当時の副議長のお計らいにより、副議長同席のもと、県健康福祉課、県教育委員会義務教育課、県高校教育課の方々への直接的な情報提供の場を2回与えていただき、そこで十分な情報提供をすることができました。<平成14年(2002年)9月、10月>

静岡県庁に何度も通いました

 

・・市民向け、教員向けセミナーの開催・・

6)静岡県下の学校敷地内の禁煙化の必要性とその実現に向けた方策について広く市民・教員に情報提供をするための市民セミナー『静岡:「公立学校敷地内完全禁煙化」推進サポート研究会(主宰:赤田信一)』を開催しました。当時の様子は、多くのメディアにも取り上げていただきました。<平成14年(2002年)10月>

7)学校禁煙化への議論を深め、世論を高めていくために、本件に関する赤田研究室の取り組みを様々なメディアに取り上げていただけるよう働きかけをしました。また、その場において、平成15年(2003年)5月に施行される予定の健康増進法(受動喫煙を防止するための努力義務)の内容についても情報提供していきました。<平成14年(2002年)10月~>

 

・・行政の立場にある方々への情報提供・・

8)10月に開催した『静岡:「公立学校敷地内完全禁煙化」推進サポート研究会(主宰:赤田信一)』で配付した資料に追加情報を加えた冊子を作成し、それを静岡県下の全ての市町村教育委員会へ送付させていただくことで、学校禁煙化に関する情勢についての情報格差の解消に努めました。平成14年(2002年)11月

(52ページの冊子となります)

 

・・・メディアに対しての情報提供・・・

(学校禁煙化へ向けての世論形成の活動)

9)学校レベルや市町村レベルで取り組まれていく「新規の学校禁煙化」の情報を、新聞社やテレビ局等のメディアに積極的に情報提供をして、学校禁煙化が草の根的にも推進されていく状況を、新聞やTVニュース等で取り上げていただきました。<平成14年(2002年)12月~>

10)静岡県議会の一般質問にて健康増進法に対応するための学校禁煙化の実現について取り上げていただき、回答として、その実現に向けての検討委員会を設置することが表明されるに至りました。<平成15年(2003年)2月>

(写真:静岡県議会HPより)

11)学校レベルや市町村レベルで取り組まれていく「新規の学校禁煙化」の情報を、新聞社やテレビ局等のメディアに積極的に情報提供をして、学校禁煙化が草の根的にも推進されていく状況を、新聞やTVニュース等で取り上げていただきました。<平成15年(2003年)2月~>

12)静岡市全高等学校25校の生徒指導主事研修会において講師の役目をいただき、学校敷地内化の必要性・意義と、その取り組みの進め方について説明しました。<平成15年(2003年)3月>

(静岡新聞 平成15年3月3日:掲載許諾済)

13)和歌山県の学校敷地内禁煙化を直接的に牽引した紀南教育研修所所長の北山敏和先生を講師としてお招きして、「学校禁煙化の実現に向けて」と題した講演会を開催しました。静岡県教育委員会の職員の方にもご参加いただき、今後の静岡県での学校禁煙化の取り組みについて、貴重な意見公開の機会を得ることができました。 また、新聞紙面にて、これまでの取組も踏まえ、ご紹介いただきました。<平成15年(2003年)3月>

(静岡新聞 平成15年3月5日:掲載許諾済)

14)静岡県の民放のラジオ局(SBSラジオ)の番組に出演させいただき、学校禁煙化の必要性やその推進についてトークをさせていただきました。<平成15年(2003年)4月>

 (SBSラジオ局にて)

15)静岡県庁での第二回「学校におけるたばこ問題検討委員会」における特別講師として招かれ、「学校禁煙化の必要性」についての意見の陳述を行わせていただきました。<平成15年(2003年)5月>

(静岡新聞 平成15年5月30日:掲載許諾済)

16)静岡市北部保健福祉センターの「親子禁煙教室」に講師として登壇し、喫煙による健康被害の大きさについて講演を行わせていただきました。<平成15年(2003年)10月>

17)禁煙の取り組みに役立てていただくため、新規に「禁煙サポート・禁煙外来の病院施設名一覧表」を作成し、それを静岡県教育委員会および県下全ての市町村教育委員会へ配付させていただきました。<平成15年(2003年)7月>

18)「学校敷地内禁煙化」に関する投稿記事を静岡新聞の「読者の声」の欄に掲載していただきました。 <平成15年(2003年)7月>

19)「学校敷地内禁煙化」に関する投稿記事の第二報を静岡新聞の「読者の声」の欄に掲載していただきました。 <平成15年(2003年)12月>

20)静岡県下の学校敷地内の禁煙化の必要性とその実現に向けた方策について広く市民・教員に情報提供をするための市民セミナー『第二回 静岡:「公立学校敷地内完全禁煙化」推進サポート研究会(主宰:赤田信一)』を開催しました。ここでは、禁煙化の推進のための効果的なポスターのあり方について、ワークショップを交えながら検討を進めました。当時の様子は、多くのメディアにも取り上げていただきました。<平成15年(2003年)12月>

(静岡新聞 平成15年12月8日:掲載許諾済)

21)学校敷地内禁煙化の実施の際に必要となる、「敷地内禁煙化の実施を呼びかけるポスター」に関して、全国の先進県・先進校の同ポスターを入手し、その一覧を静岡県教育委員会および県下全ての市町村教育委員会へ配付させていただきました。<平成16年(2004年)1月>

敷地内禁煙化の象徴となるポスター案

22)静岡県私学教育振興会にて講師として招かれ、私学における学校禁煙化の取り組みの必要性とその方法論について紹介させていただきました。<平成16年(2004年)6月>

23)受動喫煙を防止することの大切さを学ぶ「タバコの害から体を守ろう」というタイトルの講演・授業を、静岡市内の足久保小学校や美和中学校、安倍口小等で実施しました。また、その授業の様子は、多くのメディアにも取り上げていただきました。<平成16年(2004年)6月~>

(静岡新聞 平成16年6月24日:掲載許諾済)

24)「学校敷地内禁煙化」に関する投稿記事を静岡新聞の「読者の声」の欄に掲載していただきました。<平成16年(2004年)7月>

25)静岡市北部保健福祉センターの「親子禁煙教室」に講師として登壇し、喫煙による健康被害の大きさについて講演を行わせていただきました。 <平成16年(2004年)10月~>

26)「学校敷地内禁煙化」に関する投稿記事を静岡新聞の「読者の声」の欄に掲載していただきました。<平成17年(2005年)3月>

 

そして

< 平成17年(2005年)4月1日 >

静岡県では、平成17年度(2005年度)より、県下全ての公立学校で「敷地内禁煙化」が実施されました(教育長通知)。ここでは、その実現に向けて、微力ながらも赤田研究室で取り組ませていただいた活動を紹介して参りました。

なお、静岡県下の学校敷地内禁煙化は、当然のことながら、様々な団体・組織、個人各位の私的・公的での精力的・継続的な働き掛け・活動があったからこそ実現されたものであり、赤田研究室の単独の成果などでは決してありません。

その前提において、「将来、静岡の学校で教員として働きたい!」と願っていた静岡大学教育学部赤田研究室の学生たちの想い、そして健康教育、保健科教育を学術研究上の専門とする私(赤田)の想いを合わせて、『受動喫煙に苦しむ児童生徒、教職員の健康の保持増進を図るための学校禁煙化』に向けた歩みを紹介させていただきました。

敷地内禁煙化により、受動喫煙の無い学校で学ぶ児童生徒が、タバコの害をしっかりと理解し、将来においても喫煙しない生活・人生を選択していただければ、何より嬉しいです。個人的なことになりますが、二人の我が子が、小学校に入学する前にこれが実現されたことが、父親としても嬉しいことでした。

以上の、健康的で安全な学校環境づくり・社会環境づくり (ヘルスプロモーション)」の活動に一緒に取り組んでいただいた研究室の学生方々に感謝と敬意を表します。社会は若い方々の想いで、少しずつ変えることができることを、体感していただけたと思います。

最後に、以上の取り組みに対し、多くの方々からのご指導や励ましをいただきましたことを心より感謝申し上げます。その一つである以下のお手紙は、活動開始当初(2002年)に、「匿名」でお寄せいただいたものです。活動中、このお手紙から何度も勇気を得ることができました。ありがとうございました。私も将来、このようなメッセージを若い世代の方々へ送れるよう、精進して参ります。

お寄せいただいたお手紙の紹介と、その後の喫煙対策に関する研究室の取り組みを紹介させていただき、この稿を閉じます。

【匿名でお寄せいただいたお手紙】

励ましをいただきましてありがとうございました

 

【その後の取り組み】

「タバコを吸わない世代」を生み出すために、セミナーの開催や、小学生、中学生、高校生に対して、喫煙防止教育を粘り強く続けています。

・・禁煙に向けたセミナーの開催・・

(静岡新聞 平成18年5月28日:掲載許諾済)

 

・・学生の方々と一緒に取組む禁煙防止教育の開催・・

(静岡新聞 平成22年7月22日:掲載許諾済)

 

(静岡新聞 平成23年7月1日:掲載許諾済)

 

(静岡新聞 平成24年6月9日:掲載許諾済)

 

これまでに多くの子供たちへ喫煙防止のメッセージを届けさせていただきました。授業・講演会の講師役としてお招きいただきました教育委員会様、学校様、教職員の皆様に心より感謝申し上げます。また、実際に授業・講演会に参加していただきました方々にもお礼を申し上げます。

お話を聞いていただけた方々の人数

27278人 

授業・講演会へのご参加、本当にありがとうございました。

 

以上、喫煙による健康被害が無くなる世界の実現を夢見ながらの、「健康的な社会環境づくり(ヘルスプロモーション)」の活動を紹介させていただきました。